複雑で変化の激しい時代のなかで、新しい未来を芸術で切り開き、社会変革を行える人材を育成するため、専門科目(主専攻)での学びを主軸としながら、分野横断での体系的な学びを通じて、さらなる強み(知識・能力)を獲得し、主専攻での学びを応用・活用するため、3 つの副専攻を設置します。
――まずは副専攻を新たに設ける目的を教えてください。 河田:大学は昔から高等教育機関と位置づけられ、専門性が一番大事だと言われてきました。それが時代の変化に伴って、単に専門を深めるだけでは社会で起こっていることに対応できる知見やスキルを得られない時代になっています。芸大は作品を作ることに重きが置かれているが、卒業生全員がアーティストになるわけではなく、特に京都芸術大学は社会での活躍を教育目標として掲げているます。そうしたなかで、4年間の軸である学科での主専攻に加えて、横断的に専門分野をつないでいくことを学んで欲しいというのが副専攻を設置する最大の目的です。
――副専攻のコースが3つあります。それぞれの特徴とは?
石井:複雑で変化の激しい時代のなかで、アートとデザイン、専門分野と非専門分野、学内と学外など、二元化が難しいものごとが多くあります。副専攻科目群では、様々なテクノロジーとアートの互換性を学び、新たなメディア表現にチャレンジするメディア・テクノロジー専攻、アート(芸術)とファインアート(美術)の差異を理解し、各々の芸術の概念化と実践に取り組むオルタナティヴ・アート専攻、大学と学外の繋がりを理解し、地域の課題や環境問題に当事者として取り組むソーシャル・イノベーション専攻という、それぞれ関わりあうものの、特徴の違う3専攻があります。初めは3つの独立した専攻だと考えていましたが、それぞれ重なりあう部分があるし、既存の学科での学修とも重なると気づいたので選択科目は他の副専攻からも選べるようにしています。
――副専攻で身につけてほしい能力を教えてください。
河田:一つは領域を越える力。そのうえでリサーチが重要です。大学や研究室のことを指して昔から「ラボ」(laboratory)といってきましたが、最近大学など以外についても「ラボ」というようになってきました。ひとつには新しいものを研究して知を切り拓く「ラボ」が社会全体で求められているということもあると思いますし、大学の「ラボ」が本来の機能を果たせ鳴りつつあるということもあると思います。高等教育では科学や技術や人文科学の知見が増えるにしたがって、教えなければならないことも増えていきますね。どんどん増える知識を教えることに大学が忙しくなり、新しいことが生まれない袋小路に入ってしまった部分があると僕は思っています。なので副専攻では、リサーチで得られた結果やデータをどう分析するかを通してアートやデザイン、あるいは別の形で次のステップを考えてみてほしいです。リサーチは3副専攻全てに共通するので、そこを始点に新しいものを自分で作ってみるプログラムを我々は用意したいと考えています。
――副専攻での学びと学科での学びの関係について教えてください。
河田:副専攻で学んだことを主専攻に取り込むことが一つです。逆に、副専攻が専門領域の融合した「るつぼ」のようなものだとしたら、そこに学科で学んだことを投入することもできます。主専攻がある種完成された学問領域に閉じ籠もっている現状があるので、それを一度溶かす方向もあります。単に学んだことを、どこでどのように活かすかといった枠組みありきの発想ではなく、新しい価値を自分で創造できるようになってほしいですね。
河田学 学部長
――副専攻は全14単位(必修8単位、 選択6単位)が修了要件となっています。それぞれの授業について教えてください。
河田:必修授業について説明すると、概論はその副専攻がどんな領域にまたがっているかを知ってもらう。特論は、総合演習に向けてリサーチやプロトタイピングといった試行錯誤を繰り返すことで自分のテーマや考えたい問題を見つけていく。そして、そこで見つけたテーマに実際に取り組むのが総合演習です。主専攻でいえば卒業研究・制作にあたる科目ですね。その間に、使えるツールや文脈、周辺の広がりについて学ぶのが選択科目です。 石井:概論の授業時間は重なっていないので、3副専攻すべての概論を受けてみてもいいわけです。イメージしているのは、特論や総合演習で学生自身の評価も加えること。教員が提示したものを学生が制作して教員がチェックする評価システムだと、この副専攻プログラムがパラドックスになってしまって成立しないのではと考えています。 河田:大学の授業には予め到達目標が設定されているが、それだけに囚われるのではなく、目標を学生自身が見つけられる授業を展開していきたいですね。
芸術教養センター 石井大介 専任講師
――どういった学生であれば新しい価値を自分で創造できるようになるのでしょうか?
河田:理想は、学生と教員、両者の相互作用が生まれることだと思います。僕たち教員は授業を作る。学生たちはリサーチをして、自分たちで考えて何かを構想し、形にする。それぞれ違うことをやているわけですが、新しいものを作り出す、ということをやっているという点は一緒です。そこに層が作用が生まれることを期待しています。だから必要な資質にあえて名前をつけるとしたら、新しいものをつくることに対する希求、憧れじゃないかな。
聞き手・前田翔吾(文芸表現学科3年)、写真・森田韻生(クロステックデザインコース3年)
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本学で学ぶアート・デザインに関する知識・スキル・感性に加えて、知覚要素である画像・音響・自然言語と空間における身体の関係を学ぶことによって、アート・デザイン的な思考をその専門領域、またそれに紐付いた表現形式にとらわれることなしに展開することを目的とする。このような能力をもって社会の先端で横断的にアート・デザイン活動を通じて社会を変革することのできる人間を育成する。
学生がアート・デザインを通した知覚のあり方とその変容を探求する姿勢をもって、各々が今日における認知と身体の関係を再検討し、新たな知覚メディアを意識した制作を行うことが出来る。
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今日の問題を「人類と自然」、「芸術と社会」という二つの大きな極から捉え、顕在化した課題の改善や二元論的な帰結にとどまる事なく、学生が潜在的な現象を深く探求する事で、現代における“芸術立国” の多重的な可能性を概念化し、具現化できる人材の育成を目指す。
学生が “アート” を深く探求する姿勢として捉え、各々が人類と自然の関係を再解釈し、社会の中で自らが立てた問いに対して芸術を介したオルタナティヴな行動を起こすことが出来る。
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新しい時代では、ものをどうやってつくるかだけではなく、良い社会とはどのようなものか、また社会は何を必要としているのか、といった問題提起を含めた創生力が問われる。そのイノベーションのために、地域を基盤としながら、デジタルやAIを活用した生産変革やグローバルな情報共有、サスティナビリティに関わるプログラム、多様性を実現するコミュニティ、経営的視点での事業マネジメントなど様々な知識や手法を学び、俯瞰的な視点と文理横断的思考による社会変革を学修の目的とする。
新時代の社会創生のために必要な知識の習得を通じて、社会の仕組みを客観視し、自身の活動に役立てられるようになる。文理横断的思考に基づく社会変革についての理解を深め、急速に変化する社会への対応力を養う。
副専攻の体系的な学びとして、まず「概論」で対象となる領域と周辺領域の関連性の理解、「特論1、2」で興味関心領域のリサーチやプロトタイプのプロセスを繰り返し自分の研究テーマを探り、「総合演習」で卒業研究に準ずるような成果物を制作します。その研究/制作の一助となるような知識・スキルを学ぶために「選択科目」を履修します。 学びの特徴は、どの副専攻においても学生が自身のテーマを見出し、リサーチや分析を通して、新しいアウトプットを創出するところにあります。こうした主体的な学びを通して、学生自身が領域を超えていける能力を身に付けることを期待しています。
副専攻科目は、1年次で履修可能な「概論」をのぞき、2年次以上かつ直近のGPA(学期:後期)が2.3以上※の者のみ履修可能です。副専攻の受講を希望する学生は、所定の期間(初回は2025年3月ガイダンス)に副専攻受講申請を行う必要があります。副専攻プログラム修了にあたっては、14単位(必修8単位、選択6単位)を修得する必要があり、修得した単位は卒業要件(芸術教養科目)に含まれます。また、選択6単位のうち、4単位は主たる副専攻で修得することとしますが、残り2単位は他の副専攻の単位を算入できます。副専攻に関する必要単位を修得した者には、各副専攻の「副専攻修了証明書」を与えます。(基礎資格として本学学士の学位を有すること)※エントリー時のみ
科目名 | 必修/選択 | 開講期 | 講義/演習 | 単位 | 履修条件概論 |
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概論 | 必修 | 1Q/3Q | 講義 | 2 | 誰でも履修可 |
特論1 | 必修 | 2Q | 講義+演習 | 2 | 要エントリー(概論を修得済であること) ※1・2の履修順序は問わない。 |
特論2 | 必修 | 4Q | 講義+演習 | 2 | 要エントリー(概論を修得済であること) ※1・2の履修順序は問わない。 |
総合演習 | 必修 | 1Q/3Q | 演習 | 2 | 要エントリー(概論、特論1.2を修得済であること) |
🔻 履修モデル
・2年生1Qまたは3Qを履修開始推奨時期として、5~9Qを標準の履修期間として想定しています。