現代社会において、メディアを介さないコミュニケーションやテクノロジーのない暮らしを想像することはもはや不可能です。これらは、芸術やデザインの世界にも広く影響を与え、私たちは常に認識を刷新し続けることが求められています。本副専攻では、画像、音響、自然言語、そして非言語コミュニケーションという多彩なメディアを横断的に見渡し、それらのメディアに対する解像度を上げることを目指します。
綿々と連なる歴史の中で、私たちの知覚と感覚はテクノロジーの発展とともに拡張され、その進化に呼応する形でメディアの進歩も止まることはありません。テクノロジーを便利な道具として効率的に使うだけでなく、時には誤用とも思えるような大胆な手法を見つけ出し、原始的な技術から最新のテクノロジーまでを水平に見渡す視野で、様々なモノ・コトを媒介する能力を養います。
これらの学びを通じて、メディア・テクノロジーに対する陳腐化しない「作法」を獲得し、社会に新たな風を吹き込むクリエイティブなリーダーとしての道を切り拓く基盤を築いていきます。本専攻の門戸は、メディア・テクノロジーに関心のあるすべての人に開かれています。
――まず、メディア・テクノロジー副専攻の目的は何でしょうか?
白石:現在、メディアアート、プロダクトサービスといった世界に限らず、日常生活においてもAIのような現代的なテクノロジーが入り込んできました。こういったドラスティックな技術の変化によって、生活はもちろん、私たちの知覚までも拡張され、変容を繰り返しています。そこで、この副専攻では、メディアを捉える知覚を、現状に根ざした形にチューニングするためもういちど捉えなおしたいと考えています。
クロステックデザインコース 白石晃一先生
――メディア・テクノロジーで得られる学びとは? 八木:技術よりも「作法」を身に付けて欲しいと考えています。テクノロジーは変わり続けて今の新しい技術もすぐに古くなるし、そのスピードも速くなっていますよね。けれど「作法」、つまりテクノロジーへの付き合い方を知っていれば、新しい技術にも対応できるので、「作法」を学んでほしいですね。 白石:直接的な技術ではなく、テクノロジーを使いこなすためのシステム、構造の理解を深めてほしいです。そして、歴史的な観点からも考えてほしいので、過去の発明も吸い上げつつ学んでいけたらと思ってます。
――具体的には、どのような授業がありますか? 白石:上記と少し重なりますが、歴史上の発明を自分たちの力でDIY的に再現することを考えています。その過程で得られる技術的な発見、情緒的な機微を吸い上げ再解釈してもらいたい。 また、最終課題は個々に取り組んでもらいますが、副専攻全コースでファイナルプロジェクトのようなことが出来ないかと考えています。その際、われわれ教員も一緒に取り組めると良いのでは、と思っています。制作を通して時代で変化していく作法を学生と同じように学びたいんですよね。同じ立場で制作することで学生、教員どちらにも刺激になりますから。
聞き手・轟木天大(文芸表現学科3年)
――どういった学生に受講して欲しい?
八木:メディア・テクノロジーの捉え方は色々あると思うんですけど、僕の場合は匿名性の美学があると考えています。仕組みづくりとか、テクノロジーの仲立ちを深く広く学びたい人の領域になると考えています。なので、内面的な部分を表現したい、コンテンツを作りたいという人にはむいていないかもしれないです。 白石:八木先生の意見を踏まえていうと、メディア・テクノロジーは何かと何かを繋ぐツールなんですよね。だけどそのツールは不思議なものだったり、自分とはかけ離れたものかもしれない。そこで、それを楽しめる、もしくは全然違う方法にも好奇心旺盛に探っていける人たちが来てくれると楽しめるんじゃないかなと思います。
情報デザイン学科 八木良太先生
教員名 | 所属 | 専門 | プロフィール |
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白石晃一 | クロステックデザインコース | 現代美術、ヒューマンコンピューターインタラクション、デジタルファブリケーション | 金属造形やデジタルファブリケーションの技術を用い、コンピューターを組み込んだ可動型の彫刻を制作。パフォーマンス・観客参加型の作品を公共空間を中心に発表する。ファブラボ北加賀屋(2013〜)を共同設立。近年は美術作品に限らず、音楽、演劇分野でのコラボレーションなどの発表も増えてきている。 |
八木良太 | 情報デザイン学科 | 現代美術、サウンドアート、メディアアート | 見たいものしか見ない・聞きたいことしか聞かないといった、我々の制限的な知覚システムあるいは態度に対する批判的思考をベースに作品制作を行う。既製品を用いて作品を構成し、その現れによって人間の知覚やそれを利用した工学的システムを浮かび上がらせるような作品を発表している。音響作品をはじめとして、オブジェや映像、インスタレーションからインタラクティブな作品など、表現手法は多岐にわたる。 |