本専攻は、近代以降の経済成長を上位の目的とする活動が生み出した歪みや社会課題を捉え、脱成長期の日本において、都市部、非都市部を問わず、その地域の社会環境、自然環境の両側面から、持続可能な未来を実現することを目的としたデザインに取り組んでいきます。  産業化、グローバル化によって事物連関の想像力を奪われた現在の状況を把握し、これからの時代にどのような社会をつくる必要があるかを考えて目的を設定し、その目的のために従来型の分断されたデザイン領域に囚われることなく、デザインの手法を横断・接続しながら成果物へ繋げていきます。課題を単体のものとして小さく捉えず、連なりの中で大きく客観的に捉え、あるべき未来を自ら構想し、成果物を生み出すことで、皆さんの今後の研究や制作活動に繋げる学修を目的とします。


担当教員インタビュー

――ソーシャル・イノベーション副専攻の目的は何ですか? 家成:現代社会の課題として、大きく自然環境と社会環境の二つが挙げられると思います。 グローバルな視点でみると、経済システムが膨張し、資源の搾取と環境破壊が進みました。こうしたグローバル経済の歪みにより発生した問題を解決することが求められています。そういった広い視野ももちろん大切なのですが、自分たちの周りの地域で循環型の社会を作っていけるような学びやアウトプット、もう一つは社会環境における、少子高齢化における超高齢化社会やジェンダー、障害者の方々のような多様な世代、心、身体を配慮した環境作りを目指すことも大切だと考えています。 木村:我々の担当する空間、環境、建築系の学科って、必然的に社会課題、社会問題を解決していくことが学びに含まれています。だけど、これらの問題をなんとなく解決するのではなく、掘り下げた方法論を学ぶことで問題意識を持って制作に取り組めるようになるといいなと思っています。

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――どういった学生に受講して欲しい? 家成:空間や環境デザイン系の学びに寄っているように感じるかもしれませんが、課題解決のための調査を通して企画や制作などに繋げていくことはどの学科にも共通するものだと思うんです。だから、デザイン系の学科じゃないからダメとは思わず受講してくれると嬉しいですね。 木村:言葉や映像、絵の力って大きいじゃないですか。地域の課題を見つけて、そこから変化させるためには何かしらの表現が必要になってくるわけですよね。キャッチコピー、映像、イラストなどメディアによっても伝わり方は全然違うので、デザイン系以外の方に来ていただけると面白くなると思います。

環境デザイン学科 木村淳子 専任講師

環境デザイン学科 木村淳子 専任講師

               空間デザイン学科 家成俊勝教授

空間デザイン学科 家成俊勝教授

――ソーシャル・イノベーション副専攻で得られる学びは? 家成:これまでの大学の学びは、所属学科中心に、それぞれの専門領域の中で学んでいくようになっています。 ですので、空間デザインコースなら、家具やインテリアといった身近な空間から、まちや地域といった広い空間までを主軸にしながらさまざまな社会課題を解決して、専門領域の範囲でのアウトプットを想定するようになっています。本専攻では、課題をはっきり捉え、その課題にフィットする解決策を発見してほしい。そのために課題に合わせて各々の領域を横断することで解決策を導ける力を学生に身につけてほしいです。 木村::社会課題を解決する能力はもちろん、解決する能力だけでなくそこから新しい価値、視点を自ら持てるようになってほしいです。どちらにしても、社会をよく見る目を養ってほしいですね。

――具体的にどのような授業がありますか? 家成:二つほどあげますが、まず一つは地域デザインですね。 自身が生まれ育った場所、興味のある場所といった、どこかの地域を一つ調べてもらう予定です。そして、その地域で循環型の社会を作るにはどうすればよいのかについて考えてもらいます。当然、一つの地域で循環型の社会を形成するのは難しいです。これまで、企業や行政、地元の人たちが取り組んできたことを学びながら、人や資源などのネットワークを把握して新しいアプローチを考えてもらえると嬉しいです。地域のあり方を考えることで、調査の手法を獲得し、地域課題を解決したり、より魅力的な地域づくりを企画することを目指したいですね。 もう一つはプロジェクトデザインです。 例えば、ある課題を抱えた企業から、オフィスをデザインしてくださいという依頼があったとします。だけど、その課題を解決するためにはオフィスのデザインではない根本的な課題があるかもしれない。 空間、ものづくりといった具体的な行動の手前にある根本的な問題を調査、発見して、どういった方向であれば問題を解決できるのかを考える授業です。

聞き手・轟木天大(文芸表現学科3年)

担当教員プロフィール

教員名 所属 専門 プロフィール
家成俊勝 空間演出デザイン学科 建築設計、内装設計、アートプロジェクト施工 2004年dot architectを設立。アート、オルタナティブメディア、建築、地域研究、NPOなどが集まるコーポ北加賀屋を拠点に活動。代表作はUmaki Camp(2013、小豆島)、千鳥文化(2017、大阪)など。第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2016)にて審査員特別表彰を受賞(日本館出展作家)。第1回JIA東北建築大賞2020。第2回小嶋一浩賞受賞。第18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2023)日本館出展。
木村淳子 環境デザイン学科 建築設計、インテリアデザイン 2014年 STUDIO RAKKORA ARCHITECTS設立。「令和3年度大阪府住宅供給公社 茶山台団地住戸改善事業 事業提案競技」で最優秀作品に選定(2021年)、「旧八女郡役所」で「第7回福岡県木造・木質化建築賞」特別賞(2021年)を受賞。それぞれの地域の特性や文化を尊重しながら、様々な事象との対話や探求を通して、生き生きとした建築・環境を生み出したいと考えている。